川井憲次コンサート2007 Cinema Symphony
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観客達のスタンディングオベーションで終演した“奇蹟の一夜” 
休憩が終わりコンサートも佳境に入って行く。コンサートのルポを締めくくる第三回目は数々の見せ場が盛り込まれた【第二部】の模様と感動のフィナーレの様子をお伝えしていこう。

穏やかで優しい雰囲気に引き込まれる

 【第二部】の幕が開けゲストの坂本美雨さんが登場。[風光る]を歌い始めると彼女の姿がスクリーンにも映し出され、独特の柔らかくて優しい声が会場を包み込む。曲が終わると川井さんより紹介を受ける。彼女は『イノセンス』の劇中で流れている[River of Crystals]の英語詞を書いた縁で、この日は美雨さん自身が歌うことになったそうだ。でもご本人曰く「今となってはこういう歌詞をなんで書いちゃったのかな(笑)と思うくらい覚えにくい歌詞」だそうで、「(当時歌った)伊藤君子さんに大変な思いをさせてしまったのでは」とも。しかし、一度歌い始めると淀みなく曲は流れ、いつのまにか“美雨の世界”引き込まれてしまった。
現実のものとなった名シーンたち

 続いて西田社中さん、茂戸藤浩司さんが舞台に現れる。『イノセンス』より[傀儡謡 怨恨みて散る〜陽炎は黄泉に待たむと]の演奏が始まるのだ。川井さんが“早くてカッコいい太鼓”を求めていた時に出会ったのが茂戸藤さんだ。【第一部】のタンクトップ姿から和風の衣装にチェンジしたがとても粋な感じだ! そういえば一口坂のリハーサルの時は赤茶の胴に紅い紐が結ばれた太鼓で洒落てるなと思ったものだが、この日は青色の胴に同色の紐が結ばれた太鼓が使われていた。ラックには【Motofuji】の文字! これもやっぱり鯔背です! さて、この曲目では約13分半という長い曲の中盤から、劇中映像をシンクロさせて劇中のシーンが生演奏で再現される。個人的に大好きなシーンで、作品を知っていればいるほど楽しめる演出と言える。でも、ちょっとでもずれてしまうと……台無しな感じになるだろう。私は事前にそのリスクを知っていただけに固唾を飲んで見守った。会場に民謡コーラスの大声音が響く。茂戸藤さんが華麗で力強い鉢さばきを見せる! 川井さんほか数名の方も和太鼓で音を刻んでいる。やがてオルゴールの音と共に映像が流れ始め、バトーが無数のガイノイド達を倒しながら突き進む。西田社中さんも茂戸藤さんも全開モード! この緊張感と迫力はDVDやサントラCDとは一味違う! そして曲も終盤となり「ドン!ドン!ドン!」という太鼓の音と共にスクリーンの中の扉が閉まる。狂いなし。狙い通りに演出が決まった! 観客も拍手喝采!

 次はオーケストラの見せ場となり『アヴァロン』の楽曲から二曲が演奏される。まずは[Gray Lady (Ash)]。切ない旋律、スクリーンには呆然とするアッシュの姿……。そして、舞台にはこの日の為にポーランドより招いたソプラノ歌手、エルジビエタ・トワルニツカさんが登場。劇中のコンサートシーンで歌っていたあの方である。川井さんがポーランド語で挨拶(芝浦のリハーサルの時に一生懸命練習されていた。確か「本日はようこそいらっしゃいました」とかの内容であったと思う)。トワルニツカさんから笑みがこぼれる。どうやら伝わったようだ。トワルニツカさんも「ミナサンコンバンワ。ドウゾヨロシクオネガイイタシマス」と日本語で観客に挨拶する。演奏されるのはもちろん[Voyage To AVALON (orchestra Ver.)]で、まさしく“あの”シーンが生で再現されるのだ! なんと贅沢なことであろうか! オーケストラの演奏と共に透き通っていて染み渡るような歌声がホールに広がる。まるで一つの楽器が奏でられているように思えた。曲間に一度引き上げ再登場してラジオドラマ『ケルベロス鋼鉄の猟犬』の主題歌[Die Antwort]を堂々と歌い上げ、再び観衆の喝采を浴びた。

 この辺りでもはや会場の熱気も最高潮に達していた。私の方も【第一部】から極度の興奮と集中が続いてふらふらしていた。このコンサートは観る方も体力がいる(笑)。しかし、川井さんが「次はちょっと怖い曲をやってみようと思います……本当はコンサートではどうかなと思ってたんですけど」と何やら不穏な発言。その曲は中田秀夫監督作品の『リング』より[不協分裂〜遺伝子]。そしてお約束(?)【見たら死ぬビデオ】の映像が流れ、やがてスクリーンに現れる“貞子”! 不気味な旋律! 私も観客も興奮から一転、すぅーっと血の気が引いて冷や汗(?)。川井さんによるとこの作品を担当してからホラー映画の仕事が増えて、今では年に何本かは担当しているそうだ。そう考えればやはりこの曲は外せないのだ! また、この時中田監督と『デスノート』のスピンオフ作品『L change the World』(2008年2月9日公開)で仕事をされることが川井さんより明かされた後[the Last name]が演奏され、しばし川井さんのギターに酔いしれた。

コンサートの最後を飾る名曲の数々

 次の曲目は[Log In]。ここでは大河原渉さんと外間弓子さんが10台のティンパニーを駆使、川井さんがチューブラベルを担当、生演奏がもの凄く難しいという曲がみごとに再現された。この壮大な曲が終ると続いて穏やかな『紅い眼鏡』の[少女のテーマ]が流れ始め、コンサートも終盤であることを告げる。川井さんが「今日こんな大規模なコンサートが開けて本当に僕は幸せです」と挨拶。続いて「僕はまた明日から普通の業務に戻ります。また作品でみなさんにお会いできたらと思います」と締めくくった。この映画は川井さんの映画音楽活動20周年の起点であり、押井監督とのコラボレーションの始まりでもあったものだ。この時のお二方の胸中はいかばかりであったのだろうか。そして最後にたたみかけるように『機動警察パトレイバー 劇場版』のエンディングを飾った[朝陽の中へ]が流れ始めた。私はコンサートのラストにもふさわしい名曲を堪能しながらも、名残惜しいような寂しいような気分にもなった。ここで一度川井さんは退場。
アンコール! そして……

 しばらくして拍手の中再び川井さんが舞台に登場。いよいよアンコール! 一曲目は『紅い眼鏡』の[The Red Spectacles -20TH EDITION-]。この曲が始まると前の席の方が「うん、うん、やっぱりこれだよね」というような感じでうなずいている。映画公開当時から20年来の大ファンも納得の選曲!といったところだろうか。そしてラストは再び[百禽 Hyakkin(Short Ver.)]。西田社中のみなさんが手拍子を打ちながら曲のサビ部分を唄い始めると、観客も同じく手拍子で応え【一夜だけの宴】の最後の一時を全員で共有する(とても楽しい、というより嬉しかった!)。ついに全演奏曲が終了。川井さんは前列の出演者と手をつなぎ万歳! 観客が一人二人と立ち始め、最後は国立大ホールを埋めた3000人の聴衆がスタンディングオベーションで応える。そしてそれは最後の出演者が退場するまで続いた……。指揮者のD島公二さんも手を振って応える。出演者の方々も家路につく観客達も、その場に居合わせた誰もが充実したとても満足そうな表情を浮かべていた。それはこのコンサートが大成功したことの証であった。 ----
【第二部】はゲストの坂本美雨さんの独特のやわらかい歌声から始まった。[風光る][River of Crystals]の二曲が流れると、会場は優しい雰囲気に包まれていった。 [傀儡謡 怨恨みて散る〜陽炎は黄泉に待たむと]は今回のコンサートの一つの見せ場となった。西田社中の方々は約13分半という長い曲をみごとに唄いきった。茂戸藤浩司さんは和風の衣装に衣替えし、華麗な和太鼓ソロを披露。この両者の貴重な生演奏により、会場にはDVDとは違う特別な雰囲気が生み出された。
ポーランドより招かれたソプラノ歌手のエルジビエタ・トワルニツカさん。その神々しい歌声で『アヴァロン』のコンサートシーンを再現。 10台のティンパニーを駆使し、会場内に力強いリズムを響かせる外間弓子さん(左)と大河原渉さん(右)。 会場内に不穏な旋律が流れ、不気味なムードが漂う。その時スクリーンから“貞子”が!……。
今回のコンサートに出演された演奏者達は偶然に集まったわけではない。普段から川井さんの収録に参加し、その音楽世界を支えている方達ばかりなのだ。 アンコールに入り[百禽 Hyakkin(Short Ver.)]でコンサートを締めくくる。西田社中のみなさんが唄いながら手拍子を打つと、観客達もそれに合わせて手拍子を打ち、会場全体がひとつになったのを実感。
演奏が終了すると川井さんは周りにいた演奏者達と手をつないで万歳! 大きな仕事をみごとにやりとげた満足げな表情。 観客達も一人二人と立ち上がっていき、最後は観客全員がスタンディングオベーションで演奏者達を讃えた。会場内は暖かいムードで包まれ、とても感動的な光景だった。
いつまでも鳴り止まない拍手。出演者全員を見送ろうとする観客達に、笑顔で手を振って応える指揮者のD島公二さん。

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